(この記事は、2022年11月5日に作成、サイト整理により2023年8月29日に転載しました。)
日野自動車は、型式指定に関する排出ガス・燃費性能試験での不正により、国内ではほとんどの車種が販売できない事態になりました。当初は、測定の回数が少ないなど以前は他社でもあった問題が公表されましたが後に、劣化耐久試験中に基準値をクリアするために浄化装置を交換するという悪質な不正も明らかになりました。以前は「2014年経済産業大臣賞」他、多数の賞を受賞した日野自動車の浄化装置は、他社の装置と比較してなにが違ったのか調べてみました。
クリーンディーゼルの排気ガス浄化装置
PM(粒子状物質)の除去
ディーゼルエンジンの排気ガスに含まれる有害物質は主に、PM(粒子状物質)とNOx(窒素酸化物)とになります。
PMは、1/100ミリ以下の浮遊粒子状物質で燃料の燃え残りや煤(すす)になったもので、マフラーから出る黒煙として見ることができます。エンジンから排出されたガスは、酸化触媒で可溶有機分(SOF・未燃焼燃料や潤滑油)・炭化水素(HC)・酸化炭素(CO)を酸化・浄化します。残ったPM(主に煤)は後方に取り付けられたDPF(ディーゼル・パティキュレート・フィルター)に吸着させて酸化触媒により高温になったガスで引き続き燃焼させますが徐々に堆積します。DPFには、圧力センサーや温度センサーが装着されていて、目詰まりを検知すると濃いめの燃料を噴射して排気温度を上昇させることによりフィルターに詰まったPMを燃焼させます。(この行程を再生といいます)
NOx(窒素酸化物)の除去
DPFを通過したガスは、SCR(Selective Catalytic Reduction・選択触媒還元)でNOx(窒素酸化物)を除去します。
現在、実用化されているSCRの主流は、尿素SCRシステムになります。基本原理は、NOx(窒素酸化物)にアンモニアを吹きかけることで生じる化学反応を利用し、無害である窒素と水に還元しています。アンモニアは劇物に指定されるため自動車に積載できません。そこで、人体に悪影響のない尿素水をタンクに貯蔵します。SCR直前の排気口の高温下に噴射することで加水分解生成されるアンモニアガスを取り出します。噴射されたアンモニアと排気ガス中のNOxはSCR触媒で水と窒素に還元されます。余剰になったアンモニアは後方の酸化触媒で水と窒素に還元され排出されます。
日野自動車のHC-SCRシステム
HC-SCR(炭化水素選択触媒還元)触媒
HC-SCRは日野自動車が開発、2010年に初採用したシステム。
他メーカーが採用している尿素SCRは、還元剤に尿素を使用するために尿素タンクや大きな供給装置が必要になるために、コストが高く、小型トラックや消防車やゴミ収集車のような特装車に搭載するのが困難になるというデメリットがありました。
HC-SCRシステムは、燃料(軽油)から分解生成した炭化水素(HC)を還元剤として、窒素酸化物(NOx)を無害化するシステム。軽油を使用するので還元剤用タンクや大きな供給装置が不要になり、軽量・コンパクト・低コストで小型トラックでも搭載が容易というメリットがあります。
「第11回新機械振興賞 経済産業大臣賞」など多数の賞を受賞したシステムですが、今回の不正発覚で、尿素SCRに比べ浄化性能が低く、触媒の耐久性も劣るなど、平成28年排ガス規制のレベルを達成きないことが明らかになりました。
まとめ
HC-SCRは、日野自動車だけが研究していた訳ではありません。いすゞ自動車は2007年の学会誌で「燃料から分解生成した HC を還元剤とする HC-SCR 触媒は,研究としては長いが,概して NOx 浄化温度帯が狭く実用化への見込みは薄い」と発表しています。今回、日野自動車はリコールによる部品交換で販売済みの車両は使用できるようにするようですが、長期の耐久性に欠ける違法部品を新品の違法部品に交換することしかできないので今後どのように対応するのか注意が必要です。最後に令和4年9月9日に国土交通大臣から日野自動車に是正命令が出ていますのでリンクします。
「型式指定に係る違反の是正命令概要」
「型式指定に係る違反の是正命令」
(2023年8月29日公開、作成:三浦敏和)
コメント