2020年12月、日本自動車工業会(自工会)の会長を務める、トヨタの豊田章男社長が記者会見で、国内すべての車が電気自動車(EV)になったと仮定すると、電力供給や充電のために、原子力発電所10基分に相当する発電能力の強化が必要になるという趣旨の考えを示し、話題になりました。
EVの技術開発は驚くほどのスピードで進んでいますが、発電技術の現状はどうなっているのか調べてみました。
太陽光発電
太陽光発電は、シリコン半導体などに光が当たると電気が発生する現象を利用し、太陽の光エネルギーを太陽電池(半導体素子)により直接電気に変換する発電方法です。日本における導入量は、近年着実に伸びており、日本を代表する再生可能エネルギー。「シリコン系太陽電池」は、壊れにくく、高変換効率(高いものでは25%を達成)である一方で、材料や製造コストが比較的高い、シリコンが厚く、曲げることができないため設置場所が限定されるというデメリットがあった。
そこで次世代の新規太陽電池材料として期待を寄せられているのが、「ペロブスカイト太陽電池」だ。ペロブスカイトと呼ばれる結晶構造の材料を用いた新しいタイプの太陽電池で、「シリコン系太陽電池」にも匹敵する高い変換効率を達成している。ペロブスカイト膜は、塗布(スピンコート)技術で容易に作製できるため、既存の太陽電池よりも低価格になる。さらに、フレキシブルで軽量なフィルム状の太陽電池が実現でき、シリコン系太陽電池では困難なところにも設置することが可能になる。このような特徴を有する太陽電池で、シリコン系太陽電池と同程度の変換効率を有するものは無かった。ペロブスカイト太陽電池の登場によって、理想的な太陽電池が実現可能になった。このことから、ペロブスカイト太陽電池は、世界で最も注目されている。
低温製膜で作製するペロブスカイト太陽電池の積層構造
プラスチックフィルムで作る高効率ペロブスカイト太陽電池。100回以上の曲げ試験でも性能は安定したままだった。
核融合発電
核融合発電とは、太陽のように水素原子の核を高温高圧で融合させてエネルギーを得る発電方法です。かつて、多くの科学評論家は核融合技術を机上の空論と捉えて「今も、これからも30年先の未来の技術であり続けるだろう」という見解が一般的だったのですが、核融合エネルギーはもはや、近い将来に実現するのは、ほぼ間違いない状況になっています。核融合エネルギーが実現すれば、化石燃料に依存する世界の状況は一変するでしょう。
核融合は、水素のような軽い原子核同士が融合し、ヘリウムなどの重い原子核に変わる反応で、少ない燃料から膨大なエネルギーを生み出す。理論上は1グラムの燃料からタンクローリー1台分にあたる約8トンの石油と同じ熱量を得られるとされる。現在の原子力発電所で起こしている核分裂反応の4倍にのぼるとされる。
核融合燃料やその原料は海水に含まれるため、資源供給の不安も少ない。燃料供給を止めれば反応がすぐに収まるため、従来の原子力発電よりも安全性が高い、発生する放射性廃棄物は低レベルのみであり、従来技術による処分が可能。
核融合反応で得た熱で水から蒸気を作り、タービンを回転させるなどすれば発電できる。核融合発電は石油や天然ガスを燃やす火力発電と異なり二酸化炭素(CO2)を排出しないため、脱炭素の切り札にもなる。国際協力では日本や米欧、中国やインドは国際熱核融合実験炉(ITER)の建設をフランスで進めており、2035年に核融合反応を起こして熱を発生させる運転を始める計画だ。
振動発電
機械や建物、人の動きなどにより発生する振動の微小なエネルギーを電気エネルギーに変換する環境発電。原理には「電磁誘導」「静電誘導」「逆磁歪効果」「圧電効果」の4つがあります。
モーターや橋脚などの建築物、あるいは腕の動きなどの身近にある振動のエネルギーを電力に変換する「振動発電」技術の発電出力が大きく向上してきた。コンプレッサーなどのモーターが生み出す振動を想定した場合、10年前は面積1cm2当たりで約10µWだった発電出力が、MEMS†プロセスを利用した最新の振動発電素子では同数十µ~約200µWと数~20倍に高まっている。発電できる電力は少ないのですが、電力を使用する場所と発電する場所が同じ場所に設置できるので、とても効率が良い発電方法になります。
Wi-Fi電波発電(スピントロニクス技術)
東北大学電気通信研究所の深見俊輔教授、大野英男教授(現東北大学総長)らは、シンガポール国立大学のHyunsoo Yang教授のグループと共同で、電子の持つ電気的性質と磁気的性質(スピン)の同時利用に立脚するスピントロニクス(注1)の原理を活用し、Wi-Fiの2.4 GHzの周波数の電磁波を効率的に送受信する技術を開発しました。さらにこれを環境発電技術へと発展させ、直列接続した8個のスピントロニクス素子を用いて、2.4 GHzの電磁波を直流電圧信号に変換してコンデンサーを5秒間充電し、発光ダイオード(LED)を1分間光らせ続けることに成功しました。
本技術を発展させることで、電力源としては捨てられ続けているWi-Fiの電波から効率的に電力を抽出して情報のセンシングや処理を行う、ワイヤレス・バッテリーフリーのエッジ情報端末などの実現が期待されます。
アンビエント発電(排熱発電・海洋温度差発電・地熱発電など)
日本の一次エネルギーは、電力や燃料などに変換・輸送・貯蔵する過程で3~4割が熱となって失われてしまいます。さらに、最終的にエネルギーが消費される段階になると6~7割に達します。これらの未利用熱を利用できるエネルギーに変換していこうというのがアンビエント発電です。
排熱発電では、熱電発電ユニットという装置に取り付けられた管に温水と冷水をそれぞれ流し、最終的に中央に取り付けられた熱電発電モジュールの間を交互に流すことで発電を行います。設置場所は主に工場の製造ラインが想定されています。
海洋温度差発電というのは、太陽光を浴びる海面と太陽光の届かない深海とでは水温に大きな差があります。その水温差を利用して発電します。蒸発器、凝縮器、タービン、発電器、ポンプの5つがパイプで連結されている。この発電機器に、沸点が低く気化しやすいアンモニアや代替フロンなどの物質を循環させて電気を作る。
1.アンモニアなどの物質をポンプで蒸発器に送り、表層の温かい海水で温めて蒸気にする。
2.発生した蒸気の力でタービンを回し、発電する。
3.タービンから出たアンモニアの蒸気を、凝縮器に送る。
4.凝縮器内でアンモニアを深海からくみ上げた冷たい海水を使って冷やし、液体に戻す。
潮力発電
潮力発電とは、別名「潮汐発電」とも呼ばれ、その言葉通り海の潮の満ち引きを利用して発電するシステムです。月の引力により、地球の海面は12~24時間周期で上下運動をしますが、それによって生じる運動エネルギーを電力に変換するのです。潮の満ち引きの差がある防波堤を湾などで仕切って、それぞれの高低差を利用し、流れた海水でタービンを回して発電する方法(水力発電と原理は同じ)です。
潮力発電は、発電設備のタービンを水深5mに設置して発電するので、再エネの中でも太陽光や風力と比べて天候に左右されません。海洋で発生する自然の力を活用するので運用コストが低く、燃料なども必要としないので、環境に対しても不可が少なく済みます。また潮の満ち引きは定期的に来るため、発電量予測やコントロールがしやすく、電気の安定供給が期待できます。しかし、当然ながら海水には塩分が含まれているため、発電に必要なタービンなどをはじめとした機材の早期劣化の問題があり、その設備に対しての対策やメンテナンスにコストが発生します。また、潮力発電が可能な潮力を得られるエリアは限定されているという問題や、あまり規模を大きくすると海洋の生態系に影響が出る可能性もあります。
バイオマス発電
バイオマス発電では、生物資源の燃焼によりエネルギーを生み出すことで発電を行います。具体的には生物資源を燃やし、水を沸騰させ、その蒸気でタービンを回すことで発電させます。バイオマス発電の発電の仕組み自体は、従来の火力発電と変わりません。
資源としては、木屑や燃えるゴミを燃焼させる方式や、家畜の糞や下水を発酵させてメタンガスを抽出・燃焼させる方法がある。
バイオマス発電は、燃やしてもCO2の増減に影響を与えない「カーボンニュートラル」という発想でつくられています。植物は燃やすとCO2を排出しますが、成長過程では光合成により大気中のCO2を吸収するので、排出と吸収によるCO2のプラスマイナスはゼロになります。そのような炭素循環の考え方のことをカーボンニュートラルといいます。
まとめ
再生可能エネルギーの普及には、さまざまな課題があります。例えば、太陽光や風力は、天候や季節によって発電量が変動するため、電力の安定供給や需要との調整が必要です。また、再生可能エネルギーの導入には、高い初期投資や環境に配慮した適切な設置場所の確保が必要です。再生可能エネルギーは、私たちの未来にとって欠かせないものです。私たちは、再生可能エネルギーのメリットや課題を正しく理解し、積極的に取り組んでいく必要があります。私たち一人一人の行動が、地球環境と社会経済の持続可能性に貢献することを忘れないようにしましょう。
(2023年7月19日公開、作成:三浦敏和)
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